「カデンツァとはどのような意味?」
「カデンツァはどのように演奏すればよいのだろう?」
演奏家の中には、楽譜にカデンツァという記載を見つけてこのように悩まれたことのある方もいるのではないでしょうか。
カデンツァには「楽曲の終止前に行う自由な即興演奏」という意味があり、カデンツァを演奏する際には個人のテクニックを披露するだけでなく曲全体の質を高めることが求められます。
今回の記事では、カデンツァの2つの意味を紹介するとともに、ピアノ・ジャズで使われるカデンツァの演奏方法についても解説します。
この記事を読んでカデンツァについて正しく理解し、ぜひご自身の演奏でも積極的にチャレンジしてみてください!
目次
1.カデンツァの2つの意味
カデンツァという言葉には以下のように2つの意味があります。
- 終止形としての和音進行
- 楽曲の終止前に行う自由な即興演奏
順番に説明します。
(1)終止形としての和音進行
カデンツァという言葉の1つ目の意味に「終止形としての和音進行」があります。
ラテン語で落下するという意味のcadereから来た言葉といわれ、ドイツ語の「kadenz(カデンツ)」が用いられます。
お辞儀の時の起立・礼・着席で使われる和音などが有名です。
カデンツァの元来の意味はこの「終止形としての和音進行」でしたが、そこから派生して16世紀末ごろより次に紹介する「即興演奏」という意味でも使われるようになりました。
このように、カデンツァにはドイツ語のkadenzが表す「終止形としての和音進行」という意味があります。
(2)楽曲の終止前に行う自由な即興演奏
カデンツァという言葉の2つ目の意味に「楽曲の終止前に行う自由な即興演奏」があります。
この意味は、イタリア語の「caenza(カデンツァ)」が語源です。
曲の終止前に、独奏者もしくは独唱者が自分の演奏(歌唱)技術を発揮する場として挿入された装飾的な部分で、主題に基づいた自由な演奏を無伴奏で行います。
独奏協奏曲やオペラのアリアなどで多く使われる技法で、カデンツァを独奏(独唱)したあとには、再び合奏を行ったのち、楽曲が終わります。
当初は演奏者が自分でカデンツァを考え演奏していましたが、次第に演奏者がカデンツァを楽譜に書き残し、その楽譜に従って別の演奏者も演奏を行うという流れに変わってきました。
さらに時代が進み、ベートーヴェンで有名な古典派以降になると、演奏者にカデンツァの即興を任せると演奏技巧を見せつける内容に偏ることが多く、作曲家の意図から離れた演奏になったり、カデンツァ部分だけ曲の質が下がってしまうと感じる作曲家が出始めました。
そこで、カデンツァ部分についてもあらかじめ作曲家が曲を作っておくケースが増え、元来の演奏者がカデンツァを作って演奏するという意味合いはかなり薄れていきました。
このように、カデンツァにはイタリア語のcaenzaが表す「楽曲の終止前の自由な即興演奏」という意味がありますが、時代が進むにつれ本来の自由な即興という意味合いは薄れてきています。
次章以降は、この意味のカデンツァについてさらに詳しく説明していきます。
2.ピアノで使われるカデンツァの演奏方法
ピアノで使われるカデンツァは、ピアノ協奏曲中にピアノのソロ演奏として登場します。
カデンツァに入ると、指揮者も他の演奏者も動きを止め、ピアノの独奏だけに注目が集まりますので、ピアニストにとってはまさに腕の見せ所です。
現在ではクラシックにおいてカデンツァを演奏者が一から考えるということはほとんどなく、過去の作曲家たちによって書かれた複数のカデンツァの中から自分の好みや技量にあったものを選択するのが一般的です。
基本的に、どのカデンツァを選ぶかはピアノ奏者に一任され、指揮者と相談する必要はありません。
つまり、カデンツァはピアノ奏者が自分の責任で選び、自由に演奏することを約束された場所なのです。
同じ曲でもカデンツァが異なれば曲全体を聴き終わったときのイメージが大きく異なるものですから、カデンツァを選ぶ際にはいろんな作曲家のものを聴き比べて自分のイメージに合うものを慎重に選ぶことが重要です。
このように、ピアノ協奏曲の中でカデンツァを演奏する場合には、ピアノ奏者が過去のカデンツァを参考にしながら自分の責任で弾き方を決め、自由に演奏します。
3.ジャズで使われるカデンツァの演奏方法
ジャズで使われるカデンツァは、アドリブの中でも特に楽曲の終止前に使われるものを指します。
ジャズの場合のカデンツァは、上で述べてきたクラシックと比べてより自由に演奏でき、アドリブ的な要素が強いのが特徴です。
ただし、ジャズの場合でもソロのテクニックを示すことに終始するのではなく、そこまでの音楽の印象を引き継いだり、曲全体のバランスを考えて曲の終わりとしてふさわしいものを表現することが重要です。
ジャズのカデンツァでも、伴奏者(ピアノ・ベース・ドラムなど)は演奏を止め、フロントが一人で自由に演奏します。
カデンツァで演奏することを演奏前にあらかじめ伴奏者に伝えておくケースもありますが、場合によってはカデンツァに入りたい箇所のドミナントの前で徐々にテンポを落としていったり、ある1つの音を長く伸ばすことで即興で伴奏者にカデンツァに入ることを伝えることもあります。
アドリブ箇所は自分ひとりで自由に演奏できますが、独奏後には伴奏者も加わって最後に音を合わせて終わるため、演奏曲のキーに合わせた音を伸ばしつつ伴奏者たちにアイコンタクトを送り、最後の音を揃えるための配慮をする必要があります。
このように、ジャズのカデンツァはアドリブ的要素が強く自由に演奏できますが、最後の音を伴奏者と合わせるためにキーやアイコンタクトに気を配ることが大切です。
(1)ジャズのカデンツァの演奏内容
ジャズのカデンツァは、即興で対応できるようあらかじめいくつかのアイディアを用意しておくことが大切です。
カデンツァはテンポ・キー・サウンドを自由に決めることができますが、自由と言われると逆に何を演奏してよいのか困ってしまう人も多いでしょう。
また、自由とはいえ今まで演奏してきた曲の内容と全く異質なものを演奏してしまっては全体的な調和がとれないため、慣れないうちは元の曲のキーに合わせたフレーズをあらかじめいくつか用意しておくことをお勧めします。
4~5個のフレーズを用意したら、これらをランダムにつないで演奏する練習を行います。
適当につないでも途中で止まることなくスラスラとフレーズを続けられるようになれば、即興でもカデンツァらしい演奏ができるでしょう。
カデンツァにある程度慣れてきたら、最終的に元の曲のコードに解決するようなコード進行を自分なりにいくつか想定し、複雑なカデンツァにチャレンジしてみるのもよいでしょう。
このように、ジャズのカデンツァに対応するためには、いきなりアドリブでチャレンジするのではなく、元の曲のキーに合わせたいくつかのフレーズを想定し、スムーズにつなげる練習をしておくことが重要です。
まとめ
今回の記事では、カデンツァの2つの意味を紹介するとともに、ピアノ・ジャズで使われるカデンツァの演奏方法について解説しました。
カデンツァには楽曲の終止前に行う自由な即興演奏という意味があり、カデンツァを演奏する際には個人のテクニックを披露するだけでなく曲全体の質を高めることが重要です。
この記事を読んでカデンツァについて正しく理解し、ぜひご自身の演奏でも積極的にチャレンジしてみてください!